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社会人生活、深層学習とか

ハゲタカジャーナル(捕食出版)に関する注意

概要

こんにちは.さっしーと申します.

学部生時代のテニスサークルの運営を経て,現在はAIの研究に従事している修士課程2年の学生です.

当ブログのほか,Twitterでも配信しておりますのでよろしければご覧ください.

https://twitter.com/satolab1201

 
今回は,私が被害に合いそうになった「ハゲタカジャーナル」なるものの注意喚起としての記事です.実体験を踏まえて解説できればと思います.

経験の浅い学生の研究者の方などにとって,少しでも有益な内容になればと存じます.

※当記事はあくまで個人の調査に基づく見解であり,もし誤り・ご指摘などありましたらご連絡ください.また,より詳しくハゲタカジャーナルについて理解が必要な場合は,大学等の教育機関が出している注意喚起の情報をご参照ください.

 

ハゲタカジャーナルとは


ハゲタカジャーナル自体をご存じの方も多いと思います.実際のところ,京都大学九州大学のサイトなどで注意喚起がなされているほか,WEB上でも問題視をする記事があるなど,世間的にも注目があることが伺えます.

しかし大変にお恥ずかしいことに,院生の私はハゲタカのハの字も知らぬ呑気な学生で,まさかそのようなジャーナルがあるとも知らなかったのです.故に,そのジャーナルから投稿のお誘いが来たときは,「俺もとうとう研究している分野で有名になってきたか!」なんてバカみたいな妄想を膨らませていました.

結論から申しますと,ハゲタカジャーナルとは別名,「捕食出版」とも呼ばれる低質なジャーナルのことです.

ja.wikipedia.org

上記サイトによると,以下のような定義となっています.

捕食出版(ほしょくしゅっぱん、英: Predatory publishing)は、**研究者の投稿した論文原稿をまともな査読過程や編集過程を経ることなく、そのままオープンアクセスの学術誌で出版する行為**である。捕食出版を行う出版社のことを捕食出版社(Predatory publisher)またはハゲタカ出版社[1]と呼び、その学術誌を捕食学術誌(Predatory journal)またはハゲタカジャーナル[2][3]などと呼ぶ。

一般的なジャーナルでは,皆様ご存じの通り,投稿された論文に対して数名の研究者が詳細に論文を査読し,accept,rejectを決定します.論文に内容に対する指摘もあり,修正の必要性も出てきたりします.

一方でハゲタカでは,まともな査読を経ずに,(あたかも査読したかのように)acceptされてしまうようなのです.実際,Wikipediaの情報では,

2013年、科学ライターのジョン・ボハノン(英語版)(John Bohannon)は、内容は全くデタラメな論文原稿を作り、世界中の305のオープンアクセス学術誌に投稿した。すると、Journal of Natural Pharmaceuticalsを含め、学術誌の約60%が「出版します(出版受理)」と返事してきた。一方、PLOS ONEを含め、約40%は不採択と返事してきた。

これには正直私も唖然としました.ここで沸いたのはシンプルな疑問です.こんなことして何の得があるんだと.それはどうもビジネスとして成立しているみたいなんですね.

つまり,研究者から高い投稿料を請求し,利益を得ているようで,結構コスパの高いビジネスのようです.

さらにタチが悪いのが,このような論文誌に一旦掲載されてしまうと,**研究者としての信頼が落ちる**という事実です.本当に恐ろしい...


対策として


ハゲタカジャーナルは一見するとどこにでもあるような名前をしています.出版機関名はEDUCATION,SCIENCE,ACADEMIC,など教育機関とうたっているようなものが散見されます.基本的に海外の機関で,カナダ,アメリカなど色々な国・地域にあるようです.カナダの一部のハゲタカJournalの問題性を提起した記事をご覧ください.

ottawacitizen.com

 

ここでは具体的な機関名を挙げませんが,私宛に投稿を促した機関もEDUCATION,SCIENCEなどの単語を含む,一見すると信頼のおける機関のように思えました.

このようなジャーナルの勧誘・手口はシンプルで,arXivなどに投稿された論文に記載されているメールアドレス宛に,非常に良い論文ですね.ぜひ私共のJournalに投稿しませんかなどとスカウトじみた勧誘を仕掛けます.具体的には以下のような感じです.(私が実際に受信したメールです.)

We have learnt about your paper published in Computer Vision and Pattern Recognition, which is titled "〇〇〇〇", and the topic of the paper has impressed us deeply.

繰り返しになりますが,ハゲタカジャーナルを知らぬ私にとっては,初見ではやった!となってしまったわけです.なにせ"impressed us deeply"ですからね.ほんとに読んでんだか知りませんけど.

万一にも出してしまった場合は,研究者としてのキャリアに傷がつく恐ろしい結果となっていたところでした..

じゃ本当にその期間が信頼できるのか判断するには結局どうしたらよいのか,という話ですが,以下の点に留意すると良いと思います.

  • BOSSに投稿に関して相談する
  • arXiv投稿者の方は,arXiv経由のメールをしてくる機関に注意する
  • Impact factorがついているか,また正しいか確認する
  • ISSN番号は正しいか確認する
  • 投稿料を確認する
  • WEB上で機関名で検索するなどして問題視されていないか確認する
  • 論文誌に投稿されている論文の質は問題ないか確認する

また,さらに各大学からも注意喚起資料があるようなので,そちらも参照していただければと思います.

とくにラボのBOSSと常日頃から交流をとっている方は,「本当にそのジャーナル大丈夫?」という話になると思いますので,言わずもがなですがコミュニケーションが重要ですね..学生だとまずは相談する,って流れにたいていの方はなると思うので.

しかし,昨今特にこのようなジャーナルは増えているようです.実際,**2018年12月に,日本国においても文部科学大臣による問題提起がなされており,**世界的な問題となっているようですね.

深層学習界隈の爆発的な研究の増加により,arXivへの熾烈な投稿合戦も,このようなジャーナルにとってはある意味書き入れ時となっているのかもしれません.

このような中,勧誘が来たら投稿数を稼ごうと勢い余って..なんてケースも考えられます.ぜひ一旦落ち着いて,一度問題がないか確認をお願いいたします.

もちろん,連絡をしてくるすべての機関が「ハゲタカ」というわけではありません.中には本当に著名な学会から,ジャーナルへの投稿をお願いいしてくるパターンもあるかもしれません.(羨ましい!)

 

まとめ


今回は技術的な内容ではないのですが,簡単なハゲタカジャーナルについてのご紹介と注意喚起でした.
実は私は最近arXivに投稿したところ,ものの3週間ほどで数件の怪しいお誘いがきたので,さすがに立腹して,このような記事を書くに至りました.研究者として未来ある方々のキャリアを守るためにも,このようなジャーナルが存在することを念頭に置いていただけると幸いです.